2016年1月25日月曜日

カーシェアにまつわる法規制ーシェアリングエコノミーに共通する現行法規制の根本的な問題とは?

2015年に引き続き、本年も話題となりそうなシェアリングエコノミー。ホームシェアやライドシェアと並び、「カーシェアリング」についても注目が集まっています。

カーシェアって?
カーシェア(カーシェアリング)とは、個人の自家用自動車を他の人が借りて使用できるサービス・プラットフォームです。ドライバーが付いて運転をしてくれるライドシェア(Uber等)とは異なり、純粋に車だけをシェアするサービスです。
車の所有者は、自分が使っていない時でも車という資産を有効活用して収入を得ることができます。借りる人は、車を所有するのに比べて安い費用でこれを使用することができ、また新たな交通手段の選択肢にもなります。
日本では、2015年9月にDeNAが開始し話題となった「Anyca」や、「CaFoRe」(カフォレ)等のサービスがあげられます。

カーシェアに関連する法規制 ー「有償貸渡事業」
道路運送法上、国土交通大臣の許可を受けなければ、①自家用自動車を②「業として」 ③「有償で」④貸し渡してはならないとされています。
レンタカー事業者は、かかる有償貸渡事業の許可を受けてレンタカー事業を営んでいます。

C to Cのカーシェアも、有償貸渡「事業」にあたるの?
個人が自分の車をC to Cで貸し出すカーシェアの場合も、上記有償貸渡事業の許可が必要となるのでしょうか。
実はこの点は、以前の投稿においても記載した、ホームシェア(旅館業法)・ライドシェア(道路運送法)と全く同じ問題が出てくることになります。
どのような場合に、上記②「業として」にあたるのか、法令上明確な定義は定められていません。判例上、「反復継続の意思」をもって行う場合には、「業として」にあたると解されています。
よって、個人が自分の車を貸し出すカーシェアの場合も、何回も・かつ継続して貸し出すような場合には、「業として」にあたり、無許可であれば道路運送法の違反とされる可能性があるということになってしまいます。

適法にカーシェアを実現する方法?
それでは、現在日本でカーシェアのプラットフォームを提供している「Anyca」や「CaFoRe」においては、どうやって上記法規制の問題をクリアしているのでしょうか。

①「Anyca」の場合 ー 「共同使用契約」
先ほどの、有償貸渡事業には許可が必要という道路運送法の規定ですが、例外として、以下の場合には許可が不要とされています。
・車を借りる人が、借りる自動車の「使用者」である場合(すなわち、所有者と借りる人が車を共同使用している場合)

Anycaでは、上記例外を利用して、許可が不要と整理しています。すなわち、車の所有者と借りる人の間で「共同使用契約」を締結することとしています。
「共同使用契約」については、利用規約上、以下のような条件が定められています。
・「共同使用契約」において、車の所有者と車を借りる人は、車の取得・維持に必要な実費等を共同で負担する。
・「共同使用契約」の有効期間は6ヶ月以上とする。
・個人間取引を前提とするので、法人の利用はできない。
・共同使用料は、車の取得・維持に必要な実費が所有者と借りる人の間で按分される範囲内で設定することが必要。車の購入金額・購入時走行距離・年間維持費を入力すると、設定可能な共同使用料の上限を表示。これを超える共同使用料の設定はできない。

②「CaFoRe」の場合 ー「有償で」貸し渡しているものではない
CaFoReのサイトや利用規約においては、同サービスは、無償での自動車の貸し借りのプラットフォームであり、有償で自動車を貸し借りするものではないと整理されています。
CaFoReで貸し出されている自動車にはそれぞれ「価格」が設定されているのですが、これは自動車を貸すことについての対価ではなく、自動車の貸出可能な日時等の自動車に関する情報や、出品者に関する情報、出品者との独占交渉権に対する対価であるとされています。

現状においては、許可が不要といえるかはいずれも不明確
①、②とも、上記方法によれば許可が不要であることが明確、というわけではありません。
Anycaについては、サービス開始から4ヶ月が過ぎた現在も、国交省が「合法かどうか調査中」という報道がなされています。上記報道によれば、国交省の見解は、車を借りる人の認識が「共同使用」なら合法、「借りる」なら違法であるが、Anycaで車を借りる人の認識が実態としてどちらなのかを見極めるのに時間がかかっている(すなわち、形式的に期間6ヶ月以上の「共同使用契約」を締結していても、実態としては、数日車を借りるという認識であって、レンタカーと変わらないのではないか、と懸念している)とされています。
上記報道においても指摘されているとおり、お金を払って車を借りるという行為は全く変わらないのに、借りる人の認識が「共同使用」なのか「借りる」なのかで許可の要否が変わるという法律の規定自体が不自然といえるかもしれません。
CaFoReについても、お金を払って車を借りているのは同じでも、そのお金を、車を借りることの対価というか、車についての情報や独占交渉権の対価というかによって、許可の要否が変わってくるのは不自然という指摘がなされる可能性はあるかと思います。

抜本的な解決ができるか ー シェアリングエコノミーに共通する問題意識
上記のとおり、現行法上「業として」の定義はあいまいであり、個人が自己の車を貸し出すカーシェアの場合も、道路運送法違反とされてしまう可能性があるといえます。
そもそも、旅館業法、道路運送法等の「業法」規制は、基本的にはB to Cを念頭に置いて制定された規制といえます。シェアリングエコノミーは、自己の余剰リソースを活用したい個人が、別の個人に対してこれを提供するというC to Cの取引です。この場合に、B to Cを前提とした既存の「業法」規制をそのまま適用するのが正しいのかは、疑問の余地もあるところかと思います。
カーシェアリングにおいても、他のシェアリングエコノミーと同様、冒頭で述べたメリットの実現と、問題点・課題(利用者の安全確保)の解決とのバランスの実現が必要になってくるところかと思います。
ホームシェアやライドシェアと並んで、法規制のあり方についての今後の議論に注目したいところです。

2016年1月1日金曜日

FinTechにまつわる法律問題 ー ソーシャルレンディングはなぜ日本で広まらないのか?原因となる法規制について。

今話題のFinTechって?
ITを活用した新しい金融サービスを提供するFinTech(フィンテック)。
会計系FinTechスタートアップ(freee、マネーフォワード等)の大型資金調達、大手金融機関も取り組みを開始したこと等で、2015年も色々と話題になっていました。今年も引き続き、FinTechが2016年のスタートアップ・トレンドになると、多くのVCにより予想されています。

FinTechと一言で言っても、「ITを活用した新しい金融サービス」の中身としては、様々なサービスが考えられます。例えば、ソーシャルレンディング、決済関連ビジネス、資産運用関連ビジネス等です。そのうち今回はソーシャルレンディングについて、問題となる法規制について見ていきたいと思います。

ソーシャルレンディング(クラウドレンディング)とは?
お金を貸したい人(レンダー)と、お金を借りたい人・企業(ボロワー)とを結び付けるサービスです。レンダーにとっては、貸し倒れのリスクを負うかわりに高いリターンを得られる可能性があるという、新しい資産運用の手段となります。ボロワーにとっては、銀行からの融資を受けられないような場合に、消費者金融よりも低金利での融資を受けることが可能になります。

アメリカやイギリスでのソーシャルレンディング ー その仕組みは?
ソーシャルレンディングの発祥の地と言われるイギリスやアメリカでは、既に多くの企業がこの領域に参入し、事業を拡大しています。
例えば、アメリカで最大手と言われるLending Clubは2014年12月にNY証券取引所への上場を果たし、現在の時価総額は$4B(約4,800億円)を超えています。Lending Clubを通じて貸し付けられた金額は、総額$13B(約1.5兆円)を超えるとされています。

アメリカやイギリスにおいては、お金を貸したい人(レンダー)が、直接ボロワー又はLending Club等のプラットフォームに対して貸付債権を持つ(貸したお金を返せといえる権利がある)という仕組みになっています。

日本におけるソーシャルレンディングは?
日本においても複数社が参入していますが(maneo、AQUSH等)、アメリカやイギリスに比べると、かなり規模が小さいのが現状です(例えばmaneoにおいては、成立ローン総額は約380億円)。その理由の1つとして、以下のような法規制の問題があげられるのです。

貸金業法 ー 貸金業者の登録って?
日本の貸金業法においては、①金銭の貸付を②「業として」行う場合には、貸金業者の登録を行うことが必要とされています。
反復・継続して(すなわち繰り返し、一定期間続けて)行う意思をもっている場合には、②「業として」にあたると考えられています。
貸金業者として登録されるためには、以下を含む一定の要件を満たすことが必要となります。
・登録を受けようとする者(法人の場合は常勤の役員)に、貸付の業務に3年以上従事した経験者がいること。
・純資産額が5,000万円以上あること。
・営業所・事業所を設置し、固定電話を設定していること。

ソーシャルレンディングが「貸金業者」にあたるの?
ソーシャルレンディングにおいてレンダーとなり、資産運用したいと考える人は、一件の貸付だけではなく、複数のボロワーに対して複数の貸付を行いたいと考えるのが通常でしょう。そうすると、アメリカやイギリスのように、レンダーがボロワー又はプラットフォームに対して貸付債権を持つという仕組みにした場合、レンダーは①金銭の貸付を②「業として」行っていることとなり、貸金業者の登録が必要となってしまうのです。
上記のとおり、貸金業者の登録の要件はかなり厳しいものとなっており、資産運用したい個人が貸金業者の登録をするのは現実的には難しいといえます。

レンダーが「債権回収」を行うことも問題
さらに、日本法上、弁護士又は債権回収業者以外の者は、債権の回収(貸したお金の取立て)を業として行ってはならないとされています。よって、レンダーがボロワー又はプラットフォームに対して貸付債権を持ち、これを回収することも、違法とされてしまう可能性があるといえます。

日本においてソーシャルレンディングを行う方法はないの?
もっとも、日本においてもソーシャルレンディングを行う方法がないわけではありません。
例えば、maneoにおいては、以下の仕組みによってソーシャルレンディングを実現しています。
①maneoが貸金業者の登録をし、maneoからボロワ−に対して貸付。
②maneoは、複数のボロワ−に対する貸付債権でローンファンドを組成し、ローンファンドへの投資を募集。なお、ファンドの組成・投資の募集を行うために必要な金融商品取引業(第二種)の登録を行っている。
③レンダーは、②のローンファンドに対して出資(匿名組合契約に基づく出資)。

なお、②で必要となる金融商品取引業(第二種)の登録には、以下を含む要件を満たすことが必要とされています。
・会社の場合、資本金が1,000万円以上であること(個人の場合、1,000万円以上の営業保証金を供託すること)
・業務に関する十分な知識・経験を有する役員・従業員の確保、組織体制が整備されていること(例えば、営業部門とは独立して、十分な知識・経験を有するコンプライアンス部門・担当者の設置が必要)

日本におけるソーシャルレンディングの課題
上記の仕組みによれば、日本においても、ソーシャルレンディングを適法に行うことは可能です。
もっとも、プラットフォームにおいて、貸金業者の登録、金融商品取引業(第二種)の登録を行う必要があります。上記のとおりその要件は厳しく、登録手続のためのコストもかかってしまいます。さらに、ファンドの組成・募集等においても一定の書類作成等のコストがかかるといえます。
ソーシャルレンディングの大きな魅力の1つとして、レンダーにとっては高いリターンの実現、ボロワ−にとっては低い金利での融資を受けられるという点があげられます。これは、店舗を持たずにオンラインでレンダーとボロワ−をマッチングし、各種コストを削減することにより実現が可能になるものといえます。しかし、日本で適法にソーシャルレンディングを行うためには、上記のコストがかかってしまうことを考えると、その魅力は減殺されてしまうといえます。また、規模の小さいスタートアップが新規に参入するハードルも、かなり上がってしまうといえるでしょう。

終わりに
上記のとおり、日本の現行法上、ソーシャルレンディングを適法に行うことは可能であるものの、アメリカやイギリスのようにシンプルな仕組みで行うことはできず、追加コストがかかってしまうというのが実情です。
FinTechに対する注目が高まる中、このあたりも規制緩和がなされていくのか、今後の動向に注目したいところです。