2016年3月7日月曜日

クックパッドの株主提案にみるコーポレート・ガバナンス ー 根本的な問題の本質は何か?

1. はじめに
クックパッドの創業者である佐野氏による株主提案等、同社の取締役候補者決定に関する一連の動向が注目を集めていました。
現執行部(穐田氏)と佐野氏の間で、取締役選任議案を一本化したと発表され、事態は収束したように見えましたが、2016/3/3に公表された定時株主総会招集通知では、監査委員会の監査報告書において、監査委員岩倉氏からの補足意見として上記一連の事態についての言及がなされ、再び注目を集めていたところです。
上記に関連して、コーポレート・ガバナンスの根本的な視点について書いてみたいと思います。

2. いつ・何が起きたのか?
(1) 事案の経緯
上記一連の騒動ですが、具体的にいつ・何が起きたのでしょうか。
クックパッドのIR資料によれば、経緯は以下のとおりとされています。

2015/11/27:特別委員会の設置
取締役会で提示された「複数の事業戦略上の選択肢」について、公平・中立な立場から精査・評価・検討等を行うため、特別委員会(委員は社外取締役5名)を設置。

2015/12/18:特別委員会の勧告
特別委員会に示された「事業戦略上の選択肢」は以下の2案。
①現在遂行中の経営計画を推し進める(穐田氏案)
②現在遂行中の経営計画を段階的に見直し、会員事業と海外事業に経営資源を集中していく。佐野氏が社長に就任する(佐野氏案)
特別委員会は、①(穐田氏案)を実施すべきと勧告。

2016/1/19:佐野氏からの1/8付株主提案(1/12に受領)を公表
①提案株主:佐野氏(議決権割合約43.6%)を含む5名(議決権割合合計約44%)
②提案内容:以下の取締役8名の選任。なお、佐野氏以外、2015/10/31の指名委員会で内定していた取締役候補者(つまり穐田氏案)を全て入れ替えるもの。
佐野陽光 (当社取締役)
岩田林平 (経済産業省おもてなし規格認証に関する検討会委員)
葉玉匡美 (TMI総合法律事務所パートナー・弁護士)
古川享 (慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
出口恭子 (医療法人社団 色空会 お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニック理事COO)
北川徹 (スターバックス コーヒー ジャパン株式会社オフィサー/執行役員)
柳澤大輔 (株式会社カヤック代表取締役CEO)
藤井宏一郎 (マカイラ株式会社代表取締役)

なお、1/8付提案書は、1/12にクックパッドに郵便で到達したが、上記開示がなされたのは1/19。その理由としては、 佐野氏から、株主提案を受けて取締役選任議案が会社案として一本化される場合には株主提案を取下げるつもりである旨を伝えられていたこと等もあり、1/19まで一本化の内容について佐野氏と協議を重ねていたため、とされている。

2016/2/5:取締役選任議案に関する基本的合意
クックパッドと佐野氏の間で、取締役選任議案の一本化に関して基本的な合意に至った。

2016/2/12:取締役選任議案の決定佐野氏による株主提案の取り下げ
①取締役選任議案を以下のとおり決定。
佐野氏、穐田氏に加えて、佐野氏が株主提案していた候補者の中から5名、現取締役から2名という体制。
取締役 佐野陽光氏
取締役 穐田誉輝氏
取締役 岩田林平氏
取締役(社外) 新宅正明氏
取締役(社外) 西村淸彦氏
取締役(社外) 北川徹氏
取締役(社外) 出口恭子氏
取締役(社外) 藤井宏一郎氏
取締役(社外) 柳澤大輔氏
②佐野氏から株主提案を取り下げる旨の書面を受領。

2016/3/3:定時株主総会招集通知:監査委員会の監査報告書における監査委員からの補足意見(招集通知62ページ以下
監査委員会の監査報告書では、いずれも相当である旨の無限定適正意見がなされたものの、監査委員岩倉正和氏から、上記一連の騒動に言及した補足意見が付された(佐野氏については取締役の「信任義務に違反するおそれがある」、執行部については「経営判断原則上認められる経営者の合理的裁量の範囲をギリギリ超えない」等)。

(2) 株価の動き
上記を受けて、クックパッドの株価にはどのような影響があったのでしょうか。
2015/11/27、12/18の特別委員会に関する開示の際は、株価に大きな変動は見られず、終値2,500〜2,700円代で推移していました。
2016/1/19、佐野氏による株主提案の公表を受け、1/20の株価は、前日終値2,183円から1,683円まで下落しています。その後2/5までに終値1,400円まで下落しますが、2/5・2/12の取締役選任議案一本化の公表の影響もあってか、株価は再び回復し、3/4の終値は2,223円となっています。

3. そもそも株主提案って?
会社法上、株主総会の議題は、取締役会において決定するとされています。よって、取締役会の選任議案における、取締役候補者の決定は、取締役会(なお、指名委員会等設置会社であるクックパッドにおいては指名委員会)が行うのが原則です。すなわち、株主は、自ら取締役候補者を選ぶのではなく、取締役会(又は指名委員会)が選んだ取締役候補者について、賛成か反対かを株主総会で投票することになります。
もっとも、一定数の株式(議決権の1%又は300個以上の議決権)を一定期間(6ヶ月以上)有する株主は、株主総会日の8週間前までに、株主総会の議題を提案することができるとされています(会社法303条2項:株主提案権)。
佐野氏は今回、上記株主提案権を行使して、自ら選定した取締役候補者の選任について、株主総会の議題とするよう要求したものです。

4. 株主提案権の趣旨は?株主 vs 取締役の利益相反
本来、株主は、細分・均一化された会社の持分(=株式)を持つ会社の「所有者」であり、経営に関する意思決定を自ら行えるはずです。
しかし、上場会社の数多くの株主が、個別の経営に関する意思決定を自ら行っていたのでは、迅速な経営判断を行うことができません。また、上場会社の株主(機関投資家や個人株主)は、株式から得られる金銭的リターンにのみ興味を有するのが通常で、個別の経営判断については関心が薄いことがほとんどです。そこで、上場会社等では、株主は、経営の専門家である取締役を株主総会で選任し、会社の経営を委任するという仕組みが取られています(「所有と経営の分離」)。
取締役は、株主からの委任を受けて会社の経営を行っており、株主の利益のために企業価値を最大化する(すなわち株主が得る金銭的リターンを最大化する)使命を負っているといえます。もっとも、一定の場合には、株主の利益と取締役の利益とが相反する(利益相反・Conflict of interestが生じる)可能性があります。典型的な場面としては、取締役の報酬の決定や、会社と取締役(又は取締役が支配する別の会社)の間の取引等です。このような場合に、取締役が株主の利益を犠牲にして自己の利益を図るおそれがあるといえます。これを防止するため、取締役の経営に関する裁量に対し、一定の歯止めが設けられています(例えば、役員報酬は株主総会で決議するものとされている等)。株主提案権も、かかる歯止めの1つであるといえます。

5. 大株主 vs 少数株主の利益相反
上記に加え、株主提案権には、少数株主の保護という趣旨もあるといえます。
大株主・少数株主共に、本来は同じ株主として、企業価値最大化という共通の利益を有しているはずです。もっとも、会社の支配権維持・自己の個人的な利益追求等、大株主がこれとは別の利益を有している可能性があります。その場合には、株主総会における多数決で有利な大株主が、少数株主の利益を犠牲にして自己の利益を追求するおそれがあると指摘されています。
例えば、大株主が、経営の能力にかかわらず、自己や自己の親族を取締役に選任しようとするような場合が考えられます。又は、親子上場の場合、親会社が、子会社の犠牲の下に親会社の利益を追求するような場面も考えられます(例えば、子会社にとって不利な条件の契約を親子会社間で締結する等)。
このような事態を防止し、少数株主の利益保護を図るため、会社法上、少数株主に一定の権利が認められています。その1つが株主提案権であるといえます。

6. 今回の事案の特徴
今回の事案の大きな特徴は、佐野氏の立場にあるといえます。
そもそも佐野氏はクックパッドの創業者です。スタートアップの創業時には、所有と経営が一致しており(すなわち、事業規模も小さく、創業者・株主である佐野氏が自ら経営)、上記のような利益相反の問題は生じないといえます。
その後クックパッドは2009年7月にマザーズ上場、2011年12月には東証一部に上場しています。2012年5月より、穐田氏が代表執行役に就任しています。事業規模拡大のため、資本市場で多くの株主から資金を調達するという上場を選択したものであり、この時点から「所有と経営の分離」がなされ、利益相反の問題も生じるようになったといえます。

現在、佐野氏は株主であると同時に、クックパッドの取締役・執行役です。また、約43.6%の株式を保有する大株主です。
上記のとおり、会社においては、2つの利益相反が生じる可能性があります。
①株主 vs 取締役:例えば取締役による候補者の決定が、取締役の資質・経営能力に基づかず、取締役の保身の目的で行われた場合には、企業価値最大化という株主の利益に反する可能性があるといえます。
②大株主vs少数株主:例えば株主提案が、大株主の支配維持・強化の目的で行われた場合には、企業価値最大化という株主の利益に反する可能性があるといえます。

もっとも、上記は理論的・抽象的な可能性ですし、実際に「企業価値の最大化」に資する選択肢は何なのか、という問いは、安易に結論を出すことはできない非常に難しい問題といえます。さらに、「企業価値の最大化」も、実は株主によって意見が分かれる可能性があるところといえます。短期保有を目的とする株主(典型的には短期運用を中心とするヘッジファンドやデイトレーダー等)にとっては、短期的に株価が下がれば利益に反したこととなります。他方、中・長期保有する株主にとっては、短期的に株価が下がったとしても、中・長期的な企業価値の向上に資するのであれば、それは正しい決断であったということになります。

今回の一連の騒動、その後の事業戦略が、クックパッドの企業価値にどのような影響を与えていくのか、コーポレート・ガバナンスの観点から興味深い事例になると考えています。なお、開示のタイミングの適切性や、市場へのシグナリング効果といった点についても、今後議論の対象となるかもしれません。

2016年2月1日月曜日

シェアリングエコノミーと法社会制度(ハッカソンプレゼン資料)

2016年1月31日に開催された、法社会制度ハッカソンβ(シェアリングエコノミー編)にて、イントロダクションのお話をさせていただきました。その際に使用したスライドをアップしています。
https://www.facebook.com/events/1635587320037764/
http://peatix.com/event/142057
現行のシェアリングエコノミー(ホームシェア、ライドシェア、その他)に関わる法制度の概要や規制緩和の動向、海外の法制度等について、概要をスライドにまとめたものです。
































2016年1月25日月曜日

カーシェアにまつわる法規制ーシェアリングエコノミーに共通する現行法規制の根本的な問題とは?

2015年に引き続き、本年も話題となりそうなシェアリングエコノミー。ホームシェアやライドシェアと並び、「カーシェアリング」についても注目が集まっています。

カーシェアって?
カーシェア(カーシェアリング)とは、個人の自家用自動車を他の人が借りて使用できるサービス・プラットフォームです。ドライバーが付いて運転をしてくれるライドシェア(Uber等)とは異なり、純粋に車だけをシェアするサービスです。
車の所有者は、自分が使っていない時でも車という資産を有効活用して収入を得ることができます。借りる人は、車を所有するのに比べて安い費用でこれを使用することができ、また新たな交通手段の選択肢にもなります。
日本では、2015年9月にDeNAが開始し話題となった「Anyca」や、「CaFoRe」(カフォレ)等のサービスがあげられます。

カーシェアに関連する法規制 ー「有償貸渡事業」
道路運送法上、国土交通大臣の許可を受けなければ、①自家用自動車を②「業として」 ③「有償で」④貸し渡してはならないとされています。
レンタカー事業者は、かかる有償貸渡事業の許可を受けてレンタカー事業を営んでいます。

C to Cのカーシェアも、有償貸渡「事業」にあたるの?
個人が自分の車をC to Cで貸し出すカーシェアの場合も、上記有償貸渡事業の許可が必要となるのでしょうか。
実はこの点は、以前の投稿においても記載した、ホームシェア(旅館業法)・ライドシェア(道路運送法)と全く同じ問題が出てくることになります。
どのような場合に、上記②「業として」にあたるのか、法令上明確な定義は定められていません。判例上、「反復継続の意思」をもって行う場合には、「業として」にあたると解されています。
よって、個人が自分の車を貸し出すカーシェアの場合も、何回も・かつ継続して貸し出すような場合には、「業として」にあたり、無許可であれば道路運送法の違反とされる可能性があるということになってしまいます。

適法にカーシェアを実現する方法?
それでは、現在日本でカーシェアのプラットフォームを提供している「Anyca」や「CaFoRe」においては、どうやって上記法規制の問題をクリアしているのでしょうか。

①「Anyca」の場合 ー 「共同使用契約」
先ほどの、有償貸渡事業には許可が必要という道路運送法の規定ですが、例外として、以下の場合には許可が不要とされています。
・車を借りる人が、借りる自動車の「使用者」である場合(すなわち、所有者と借りる人が車を共同使用している場合)

Anycaでは、上記例外を利用して、許可が不要と整理しています。すなわち、車の所有者と借りる人の間で「共同使用契約」を締結することとしています。
「共同使用契約」については、利用規約上、以下のような条件が定められています。
・「共同使用契約」において、車の所有者と車を借りる人は、車の取得・維持に必要な実費等を共同で負担する。
・「共同使用契約」の有効期間は6ヶ月以上とする。
・個人間取引を前提とするので、法人の利用はできない。
・共同使用料は、車の取得・維持に必要な実費が所有者と借りる人の間で按分される範囲内で設定することが必要。車の購入金額・購入時走行距離・年間維持費を入力すると、設定可能な共同使用料の上限を表示。これを超える共同使用料の設定はできない。

②「CaFoRe」の場合 ー「有償で」貸し渡しているものではない
CaFoReのサイトや利用規約においては、同サービスは、無償での自動車の貸し借りのプラットフォームであり、有償で自動車を貸し借りするものではないと整理されています。
CaFoReで貸し出されている自動車にはそれぞれ「価格」が設定されているのですが、これは自動車を貸すことについての対価ではなく、自動車の貸出可能な日時等の自動車に関する情報や、出品者に関する情報、出品者との独占交渉権に対する対価であるとされています。

現状においては、許可が不要といえるかはいずれも不明確
①、②とも、上記方法によれば許可が不要であることが明確、というわけではありません。
Anycaについては、サービス開始から4ヶ月が過ぎた現在も、国交省が「合法かどうか調査中」という報道がなされています。上記報道によれば、国交省の見解は、車を借りる人の認識が「共同使用」なら合法、「借りる」なら違法であるが、Anycaで車を借りる人の認識が実態としてどちらなのかを見極めるのに時間がかかっている(すなわち、形式的に期間6ヶ月以上の「共同使用契約」を締結していても、実態としては、数日車を借りるという認識であって、レンタカーと変わらないのではないか、と懸念している)とされています。
上記報道においても指摘されているとおり、お金を払って車を借りるという行為は全く変わらないのに、借りる人の認識が「共同使用」なのか「借りる」なのかで許可の要否が変わるという法律の規定自体が不自然といえるかもしれません。
CaFoReについても、お金を払って車を借りているのは同じでも、そのお金を、車を借りることの対価というか、車についての情報や独占交渉権の対価というかによって、許可の要否が変わってくるのは不自然という指摘がなされる可能性はあるかと思います。

抜本的な解決ができるか ー シェアリングエコノミーに共通する問題意識
上記のとおり、現行法上「業として」の定義はあいまいであり、個人が自己の車を貸し出すカーシェアの場合も、道路運送法違反とされてしまう可能性があるといえます。
そもそも、旅館業法、道路運送法等の「業法」規制は、基本的にはB to Cを念頭に置いて制定された規制といえます。シェアリングエコノミーは、自己の余剰リソースを活用したい個人が、別の個人に対してこれを提供するというC to Cの取引です。この場合に、B to Cを前提とした既存の「業法」規制をそのまま適用するのが正しいのかは、疑問の余地もあるところかと思います。
カーシェアリングにおいても、他のシェアリングエコノミーと同様、冒頭で述べたメリットの実現と、問題点・課題(利用者の安全確保)の解決とのバランスの実現が必要になってくるところかと思います。
ホームシェアやライドシェアと並んで、法規制のあり方についての今後の議論に注目したいところです。

2016年1月1日金曜日

FinTechにまつわる法律問題 ー ソーシャルレンディングはなぜ日本で広まらないのか?原因となる法規制について。

今話題のFinTechって?
ITを活用した新しい金融サービスを提供するFinTech(フィンテック)。
会計系FinTechスタートアップ(freee、マネーフォワード等)の大型資金調達、大手金融機関も取り組みを開始したこと等で、2015年も色々と話題になっていました。今年も引き続き、FinTechが2016年のスタートアップ・トレンドになると、多くのVCにより予想されています。

FinTechと一言で言っても、「ITを活用した新しい金融サービス」の中身としては、様々なサービスが考えられます。例えば、ソーシャルレンディング、決済関連ビジネス、資産運用関連ビジネス等です。そのうち今回はソーシャルレンディングについて、問題となる法規制について見ていきたいと思います。

ソーシャルレンディング(クラウドレンディング)とは?
お金を貸したい人(レンダー)と、お金を借りたい人・企業(ボロワー)とを結び付けるサービスです。レンダーにとっては、貸し倒れのリスクを負うかわりに高いリターンを得られる可能性があるという、新しい資産運用の手段となります。ボロワーにとっては、銀行からの融資を受けられないような場合に、消費者金融よりも低金利での融資を受けることが可能になります。

アメリカやイギリスでのソーシャルレンディング ー その仕組みは?
ソーシャルレンディングの発祥の地と言われるイギリスやアメリカでは、既に多くの企業がこの領域に参入し、事業を拡大しています。
例えば、アメリカで最大手と言われるLending Clubは2014年12月にNY証券取引所への上場を果たし、現在の時価総額は$4B(約4,800億円)を超えています。Lending Clubを通じて貸し付けられた金額は、総額$13B(約1.5兆円)を超えるとされています。

アメリカやイギリスにおいては、お金を貸したい人(レンダー)が、直接ボロワー又はLending Club等のプラットフォームに対して貸付債権を持つ(貸したお金を返せといえる権利がある)という仕組みになっています。

日本におけるソーシャルレンディングは?
日本においても複数社が参入していますが(maneo、AQUSH等)、アメリカやイギリスに比べると、かなり規模が小さいのが現状です(例えばmaneoにおいては、成立ローン総額は約380億円)。その理由の1つとして、以下のような法規制の問題があげられるのです。

貸金業法 ー 貸金業者の登録って?
日本の貸金業法においては、①金銭の貸付を②「業として」行う場合には、貸金業者の登録を行うことが必要とされています。
反復・継続して(すなわち繰り返し、一定期間続けて)行う意思をもっている場合には、②「業として」にあたると考えられています。
貸金業者として登録されるためには、以下を含む一定の要件を満たすことが必要となります。
・登録を受けようとする者(法人の場合は常勤の役員)に、貸付の業務に3年以上従事した経験者がいること。
・純資産額が5,000万円以上あること。
・営業所・事業所を設置し、固定電話を設定していること。

ソーシャルレンディングが「貸金業者」にあたるの?
ソーシャルレンディングにおいてレンダーとなり、資産運用したいと考える人は、一件の貸付だけではなく、複数のボロワーに対して複数の貸付を行いたいと考えるのが通常でしょう。そうすると、アメリカやイギリスのように、レンダーがボロワー又はプラットフォームに対して貸付債権を持つという仕組みにした場合、レンダーは①金銭の貸付を②「業として」行っていることとなり、貸金業者の登録が必要となってしまうのです。
上記のとおり、貸金業者の登録の要件はかなり厳しいものとなっており、資産運用したい個人が貸金業者の登録をするのは現実的には難しいといえます。

レンダーが「債権回収」を行うことも問題
さらに、日本法上、弁護士又は債権回収業者以外の者は、債権の回収(貸したお金の取立て)を業として行ってはならないとされています。よって、レンダーがボロワー又はプラットフォームに対して貸付債権を持ち、これを回収することも、違法とされてしまう可能性があるといえます。

日本においてソーシャルレンディングを行う方法はないの?
もっとも、日本においてもソーシャルレンディングを行う方法がないわけではありません。
例えば、maneoにおいては、以下の仕組みによってソーシャルレンディングを実現しています。
①maneoが貸金業者の登録をし、maneoからボロワ−に対して貸付。
②maneoは、複数のボロワ−に対する貸付債権でローンファンドを組成し、ローンファンドへの投資を募集。なお、ファンドの組成・投資の募集を行うために必要な金融商品取引業(第二種)の登録を行っている。
③レンダーは、②のローンファンドに対して出資(匿名組合契約に基づく出資)。

なお、②で必要となる金融商品取引業(第二種)の登録には、以下を含む要件を満たすことが必要とされています。
・会社の場合、資本金が1,000万円以上であること(個人の場合、1,000万円以上の営業保証金を供託すること)
・業務に関する十分な知識・経験を有する役員・従業員の確保、組織体制が整備されていること(例えば、営業部門とは独立して、十分な知識・経験を有するコンプライアンス部門・担当者の設置が必要)

日本におけるソーシャルレンディングの課題
上記の仕組みによれば、日本においても、ソーシャルレンディングを適法に行うことは可能です。
もっとも、プラットフォームにおいて、貸金業者の登録、金融商品取引業(第二種)の登録を行う必要があります。上記のとおりその要件は厳しく、登録手続のためのコストもかかってしまいます。さらに、ファンドの組成・募集等においても一定の書類作成等のコストがかかるといえます。
ソーシャルレンディングの大きな魅力の1つとして、レンダーにとっては高いリターンの実現、ボロワ−にとっては低い金利での融資を受けられるという点があげられます。これは、店舗を持たずにオンラインでレンダーとボロワ−をマッチングし、各種コストを削減することにより実現が可能になるものといえます。しかし、日本で適法にソーシャルレンディングを行うためには、上記のコストがかかってしまうことを考えると、その魅力は減殺されてしまうといえます。また、規模の小さいスタートアップが新規に参入するハードルも、かなり上がってしまうといえるでしょう。

終わりに
上記のとおり、日本の現行法上、ソーシャルレンディングを適法に行うことは可能であるものの、アメリカやイギリスのようにシンプルな仕組みで行うことはできず、追加コストがかかってしまうというのが実情です。
FinTechに対する注目が高まる中、このあたりも規制緩和がなされていくのか、今後の動向に注目したいところです。