2015年10月14日水曜日

ライドシェア(Uber等)に関する法規制

1. はじめに
アメリカをはじめ世界で絶大な人気を誇り、時価総額$50B(約6兆円)超とも噂されるUberですが、2014年8月より東京都で本格的にサービスを開始しています。もっとも福岡では、2015年2月にテストを開始した「みんなのUber」につき、国土交通省からいわゆる「白タク」に該当する可能性が高いとして指導を受け、同年3月にはサービスを中止しています。Uber等のライドシェアサービスに関連する法規制や、いわゆる「白タク」とは何なのでしょうか。

2. 道路運送法の規制の概要
道路運送法上、「旅客自動車運送事業」を営むには許可の取得が必要とされています。
「旅客自動車運送事業」とは、①他人の需要に応じ、②有償で、③自動車を使用して旅客を運送する事業をいうとされています。典型的な事例がタクシーです。
また、許可を取得したタクシー事業者の車(タクシー)以外の自家用自動車は、有償で運送の用に使ってはならないとされています。
上記許可を得ずに、自家用自動車で有償で運送を行う行為が、いわゆる「白タク」として道路運送法上違法とされます。

現在東京で行っているUberのサービスは、上記規制の範囲内で行われています。すなわち、適法に許可を保有しているタクシー業者と提携し、Uberは提携事業者とユーザーを結ぶ仲介業者として配車サービスを行うこととしています。
なお、Uber自身は、かかる仲介事業を行うことに必要となる第2種旅行業の許可を取得しています。
それでは、福岡でのサービスでは何が問題となったのでしょうか。

3. 福岡でテストを開始した「みんなのUber」の概要
2015年2月に福岡でテストを開始したみんなのUberは、一般から募集したドライバーの自家用車を配車するサービスでした。東京でのサービスは許可を保有している提携タクシー事業者の車を配車していたのに対し、「みんなのUber」でのドライバーは許可を保有していなかったことから、問題とされたものです。
もっとも、報道によれば、「みんなのUber」を利用するユーザーは無料であり、Uberからドライバーに対して、「データ提供料」として走行時間に応じた対価を支払っていたとのことです。ユーザーは無料でも上記②「有償」の要件を満たし、「旅客自動運送事業」として許可が必要になるのでしょうか。

4. ②「有償」の解釈
福岡のサービスで問題となった②「有償」の解釈ですが、例えばヒッチハイクのような完全にタダの場合には、許可は不要となります。それでは乗せてもらった人がガソリン代だけドライバーに支払ったような場合はどうでしょうか。
通達によれば、以下のいずれかの場合には「有償」にあたらず、許可は不要とされています。
①「好意に対する任意の謝礼」と認められる場合
予め運賃表等を定めてそれに基づき支払われる場合には、少額であってもこれにはあたらないとされています。
②金銭的価値の換算が困難・又は流通性が乏しい物が支払われる場合
具体例は自宅でとれた野菜(地方農家の場合)等とされており、現金はもちろん、商品券・貴金属等の換金性・流通性の高いものはこれにあたらないとされています。
③(i)当該運送行為が行われる場合にのみ発生する費用であって、(ii)客観的、一義的に金銭的な水準を特定できるものを負担する場合
通常はガソリン代、道路通行料、駐車場料金のみがこれに該当するとされています。人件費、車両償却費、保険料等は、(i)又は(ii)を満たさないため、これにあたらないとされています。
例えばライドシェアサービスの「のってこ!」は、ドライバーと相乗り希望者のマッチングプラットホームを提供していますが、上記通達に従い、「有償」にあたらず許可不要とされる範囲内でサービスを行っています。具体的には、ドライバーが相乗り希望者に請求できるのは、実費(ガソリン代、道路通行料、駐車場代)のみとされており、ドライバーが利益を得る目的でライド・シェアを行うことは禁止とされています。

5. 「みんなのUber」は「有償」?
報道によれば、国土交通省の見解としては、以下のような点から、実質的には「有償」であり、いわゆる「白タク」にあたる可能性が高いと判断したとのことです。
  • 顧客からドライバーへの報酬支払いはなくても、Uberからドライバーには報酬が支払われている。Uberからであれ、顧客からであれ、実態として何らかの形でドライバーに報酬が支払われる場合にはその運送は「有償」に分類される。
  • 「無償」といえるためには、実費としてガソリン代など最小限に留められるべき(上記4.③参照)。しかし、実際に支払われた金額については週当たり数万円に上る場合もあるとのことだった。月額にするとこれはもはや「職業ドライバー」の水準と変わりない。

また、ドライバーとの契約の相手方が日本法人ではなく欧州のUber関連会社であったこと、ドライバーの保険について曖昧だった点等も懸念点であったとされています。「ユーザーの安全性担保に疑問」「守るべきは、利用者」「利用者に不都合なことがあってはいけないというところに最終的には行き着く」という観点から、中止を求めたとされています。
かかる国土交通省からの行政指導を受け、Uberは「みんなのUber」を20153月で中止しています。
上記国土交通省の見解は、本当に「利用者」のためになるものといえるでしょうか。利用者の立場としては完全無料のサービスであったわけで、友人や家族の車に乗せてもらい送ってもらう感覚で、このサービスを利用してみたいというニーズもあったのではないでしょうか。

6. 終わりに
道路運送法上、①他人の需要に応じ、②有償で、③自動車を使用して旅客を運送する事業を(旅客自動車運送事業)を営むには許可取得が必要とされています。
Uberの東京でのサービスは、許可を得た提携タクシー事業者のタクシーを配車する点で上記規制に従ったものです。これに対し福岡の「みんなのUber」は、許可を有しない一般ドライバーの車を配車した点で、無許可でのいわゆる「白タク」として問題視されました。

もともとアメリカで始まったUberLyft等のライドシェアサービスは、車を持っており運転できる個人と、ライドを提供してほしい個人とをマッチングするというシェアリングエコノミーの発想で始まったサービスです。シェアリングエコノミーの社会的有用性については従前の記事でも記載したとおりですが、ライドシェアも、自分の車・空き時間というリソースを活用したい個人と、タクシー等の既存の交通手段よりも安い価格でライドを受けたい利用者の双方のニーズを叶えるものといえます。
現在の道路運送法の枠組みの下では、既存の許可を有するタクシー事業者の配車サービス(東京都でのUberのサービス)という形になってしまいますが、これでは本来のシェアリングエコノミーの発想を実現することはできません。自分の車・空き時間というリソースを有効活用したい個人(プロのタクシー運転手ではなく)のニーズを叶えることはできませんし、既存のタクシー事業者と提携する以上既存タクシーよりも安価とすることは難しいと考えられます。確かに利用者の安全確保は重要ですが、許可の取得(行政による監視)という既存の方法以外にも、安全確保が可能な方法は存在するように思われます。例えばアメリカのUberでは、Uberによる厳しい審査やレーティングシステム等により安全確保を図っており、これが現実に機能しユーザーの信頼を勝ち得ているからこそ、同社サービスの急成長が実現できたと考えられます。
規制改革会議においても、シェアリングエコノミーに関する規制緩和が議論されておりますが、現状ライドシェアに関する具体的な議論はまだなされていないようです。今後の展開に期待したいところです。