2015年9月13日日曜日

Sharing Economyを揺るがす訴訟 - Employee vs Independent Contractor

1. はじめに
オンデマンド掃除代行サービスのHomejoyが2015.7.31付でサービスをshutdownしたことは記憶に新しい(Homejoy blog)。上記shutdownの一因は、Homejoyのcleanerがemployeeかindependent contractorであるかを巡って提起された訴訟であるとされている。この問題は、余剰リソースを提供する側と顧客とをC to Cでマッチングするsharing economy業界の多くの企業に共通する問題であり、今後の同業界への影響について大きな注目が集まっている。
同様の訴訟は、sharing economy型のサービスを提供する各社に対して提起されている。例えば、Uber・Lyft(ライド・シェア)、Handy(掃除代行)、Try Caviar・Postmates(フードデリバリー)、Instacart(食料品等の買物代行)等。

2. Employeeとindependent contractorの違い、sharing economyとの関係
Employeeとは、企業等に雇用されている従業員をいい、仕事が提供される方法・手段等につき雇用主が管理・指示権限を有する場合には、employeeにあたるとされる。
Independent contractorとは、一般公衆に対して独立して事業・サービス等を提供する者(医者・弁護士・請負人等)をいい、依頼主が仕事の結果についてのみ管理・指示権限を有する(仕事が提供される方法・手段等につき管理・指示権限を有しない)場合はindependent contractorにあたるとされる。
両者の区別は、形式的な契約形態のみではなく、実態に基づいて判断すべきとされる(IRSが公表している主要な考慮要素はこちら)。
Employeeにあたる場合、企業側には時間外・休日労働の割増賃金支払い、職務に関して支出した諸経費の支払い、医療保険の提供等が義務付けられ、企業側のコストは増す。かかる義務が設けられている根拠はemployeeの権利保護にある。Independent contractorは独立して自己の事業・サービス 等を提供する者であり、個々の依頼主と交渉して自己に有利な条件で取引するバーゲニングパワーがあるのに対し、employeeは強者である雇用主との間でかかる交渉力を持たず、法による保護が必要というものである。

Uber、Homejoy等のSharing economyの元来の発想は、ライドや家事等のサービスを受けたい個人と、自己の空き時間や車等の余剰リソースを有する個人とをマッチングし、これらのリソースを有効活用する点にあった。上記元来の発想からすれば、リソースの提供者側は、自分の空いた時間に、サービスのニーズを有する各個人に対して個別にサービスを提供するのであって、むしろindependent contractorに近い発想であったはずである。
しかし、サービスを利用する依頼者の顧客満足度の達成という観点からは、UberやHomejoyを通じて提供されるサービスにつき一定のquality controlを及ぼすことが必要となる。よって各社は、登録時の審査・サービス提供の際のガイドライン・レーティング制度(例えばUberでは一定レーティングを下回ると契約終了が可能)等により、ドライバー /cleaner等に対して一定のcontrolを及ぼそうとした。事業が成長し利用者が増えるにつれ、利用者の安心・安全確保のためのプラットフォーマーとしての責任という観点からも、かかるquality controlの重要性は増したといえる。
他方、プラットフォーマーの力が強くなり、controlが強くなるにつれて、元来の雇用におけるemployee保護と同様の要請が出てくることになる。前述のsharing economy各社に対する訴訟の原告の中には、例えばUberの収入で生計を立てている者もいると考えられ、このような場合にはUberは雇用主と類似の交渉力を有するといえるだろう。
これらの訴訟の今後の展開は、sharing economyの社会的有用性・プラットフォーマーによる一定のquality controlの要請と、リソース提供者側の保護の要請とのバランスをどのように解決するかという問題について、重要な意味を持ってくると考えられる。

なお、上記問題に関して、independent contractorではなく従業員として扱うという対応をしている企業も存在する。フードデリバリーのMunchery、バトラーサービスのAlfred、掃除代行のMyClean等。Employeeとして雇用することによりコストは増えるが、しっかりとしたコントロールを及ぼしサービスの質・顧客満足度を高めるという方針だ。これに対し、independent contractorに過ぎないという立場を貫いた上、訴訟リスクを減らしたいという場合には、コントロールを極力減らすという方針となろう(例えばCraigslistのようなプラットフォーム提供のみの形)。但し、前述のquality controlの要請をどう担保するかは課題となろう。

3. 裁判における判断
これらの訴訟のうち、independent contractorではなくemployeeであるという裁判所の判断が下されたものとして、①Uberに対する2015.6.16付California Labor Commissionによる判断、②FedExに対する2014.8.27付California Ninth Circuit Court of Appealsがある。なお、①についてはUberが控訴、②についてはFedExは2,000人を超えるドライバーからの訴訟につき$228Mで和解したとされている(Forbesの記事)。
両訴訟において、以下のような理由により、Uber/FedExがドライバーによる職務の提供に対してコントロールを及ぼしていると判断された。
①Uber

  • ドライバーが提供しているものは車と労働力に過ぎず、事業に不可欠な知的財産権(アプリ)を提供しているのはUberである。
  • ドライバーの登録に際しては個人情報提出・Uberによるバックグラウンドチェックの完了が必要。
  • 使用する車はUberへの登録が必要。
  • Uberはドライバーのレーティングが4.6 starsを下回れば契約を終了させることができる。

②FedEx

  • ドライバーのユニフォームの指定、車両へのFedExロゴ掲載等の義務付け
  • ドライバーの1日の勤務時間は9.5-11時間となるよう管理
  • FedExがドライバーに対し、配達地域、配達すべき荷物・時期を指定

上記各要素を見る限りでは、類似の訴訟を提起されたsharing economy各社に対しても当てはまる点が多いと思われる(企業側が事業に不可欠なアプリ等を提供している点・登録時に一定の審査を要する点等)。もっとも、①の判断はUberが控訴中であり最終確定したものではなく、また原告の当該ドライバーについてのみ当てはまるものである。今後の裁判では、②FedExとは異なり背景にあるsharing economyの発想(個人が空き時間を利用し、余剰リソースを提供してお金を稼ぐ)も加味した判断がなされることを期待したい。例えばUberで生計を立てているドライバーと、子供が学校に行っている日中の空き時間を活用してHomejoyでお小遣いを稼いでいる主婦とでは、全く同じ基準を用いて判断することは必ずしも必要ないのではないだろうか。


①、②における主要な考慮要素・裁判所の判断の概要は以下のとおり。

考慮要素裁判所の判断(概要)
①Uber
Uberがドライバーへのコントロールを及ぼしているかサービスのニーズがある顧客を獲得し、ドライバーにそのサービスを行わせることにより、Uberは業務のオペレーション全体について必要なコントロールを及ぼしているといえる。
雇用であるとの推定が働き、Uber側にindependent contractorであるとの立証責任がある。
ドライバーが所有する車であることは重要な要素とはならない。
ドライバーの行う仕事が、Uberの通常事業における不可欠な要素であるか否かドライバーの仕事は、Uberの事業に不可欠である。Uberは乗客に運送サービスを提供しており、実際に顧客の運送を行うドライバーなしにはUberの事業は成り立たない。
ドライバーが、Uberと比して、独立したビジネス又はプロフェッショナルサービスを提供しているといえるかドライバーが提供しているものは車と労働力に過ぎない。ドライバーは利益や損失に影響を及ぼすような管理職的なスキルを提供していない。
Uberは事業に不可欠なアプリを提供しており、この知的財産権なしにはドライバーは仕事を提供することはできない。
Uber側の反論:
Uberはドライバーと乗客を結ぶ、中立なテクノロジープラットフォームにすぎない
実態としては、Uberはオペレーションの全ての要素に関与している。
ドライバーとしての登録:
ドライバーはUberに対し、個人の銀行・住居情報、Social Security Number等を提出することが必要であり、Uberのバックグラウンドチェックが完了するまでプラットフォームの利用は不可。
業務に使用するツール:
Uberが管理している。ドライバーは所定基準に従い、車をUberに登録しなければならない。Uberはドライバーのレーティングを監視しており、4.6 starsを下回れば契約を終了させる。
Fees:
Uberがドライバーに支払うサービスフィーにつきドライバーは交渉不可。Uberを呼んだ後キャンセルされた場合、ドライバーはキャンセル料金を保証されていない(Uberがその裁量で顧客とキャンセル料金の交渉を行う)。Uberはドライバーに対し、チップを受け取らないことを奨励。
②FedEx
FedExが、ドライバーへのコントロールを及ぼしているか契約書上は、independent contractorとされているが、契約書上の形式的な整理は重要ではなく、実態に着目すべき。
以下のとおり、FedExはドライバーの職務提供の方法につき多大なコントロールを及ぼしている。
 ①ドライバー・車両の外観ドライバーのユニフォームが規定されており、就業規則等で外観についての詳細な要件あり。
車両について、FedExロゴの掲載・色・サイズ・素材等の詳細な要件あり。
上記基準に満たない場合、マネージャーはドライバーの職務提供を行わせないことができる。
 ②ドライバーの勤務時間ドライバーの勤務時間:
実態としては、ドライバーの勤務日における勤務時間は9.5-11時間と決まっており、これを超える又は下回ることがないようFedExにより管理されている。
 ③ドライバーが荷物を配達する方法・時期FedExが各ドライバーに対し、配達地域を指定、配達すべき荷物・時期を指示。荷物の配達時期等はFedExが直接顧客と交渉する。

4. 終わりに
Sharing economyの社会的意義・ニーズについては言うまでもないが、プラットフォーマーによる一定のquality controlの要請と、リソース提供者側の保護の要請とのバランスという問題が今後どのように解決されていくか、大変興味深い。
各社に対して提起された今後の訴訟の動向についても引き続き要注目である。