2015年8月24日月曜日

Googleの組織再編ー持株会社Alphabetの設立

1. はじめに
2015.8.10付で、Googleが大規模なrestructuringを公表しました。主要な内容は以下のとおりです。
  • 公開持株会社のAlphabet Inc.(Alphabet)を設立。GoogleはAlphabetの完全子会社となる。
  • 現Google株主が保有するGoogle株式は、同数・種類・権利のAlphabet株式に自動転換される(Google株主の課税なし)。Alphabet株式は、現在と同様、Nasdaq市場において、GOOGLとGOOGという銘柄で取引される。
  • Alphabetの傘下では、以下の各事業がそれぞれ別個に運営される。
    • Google business(検索、広告、地図、アプリ、YouTube、Android)
    • Calico(Googleが2013年に設立した、老化・老齢疾患等をターゲットとするヘルスケア・バイオテクノロジー企業)
    • Life Science(血糖値測定コンタクトレンズ等)
    • Nest(Googleが2014年に買収した、家庭用サーモスタット等を手がけるIoTハードウェア企業)
    • Fiber(高速ブロードバンドサービス)
    • 投資事業(Google Ventures、Google Capital)
    • Google X(自動運転事業を含む、インキュベーター)
  • 現Google経営陣がAlphabetの経営陣となり、GoogleのCEOにはSundar Pichai氏が就任。


2. Restructuringの法的手法
Googleの同日付Form8-Kによれば、restructuringは、Delaware州会社法§251(g)の規定に基づき、Googleの株主の同意を経ないで行われるものとされています。具体的な手順は以下のとおりです。
①Googleの完全子会社として、Alphabetを設立
②Alphabetの完全子会社として、合併のための特別目的会社(Merger Sub)を設立
③Googleを存続会社、Merger Subを消滅会社とする合併
→③の合併対価として、Merger Subの株主であるAlphabetはGoogleの全株式を取得します。また、現Google株主は、同数・種類・権利のAlphabet株式を取得します。



Delaware州会社法§251(g)は、1995年の改正により追加された規定であり、Delaware法準拠の会社(ここではGoogle)が、持株会社の完全子会社と合併することによる組織再編について、以下を含む一定の要件を満たす場合には、株主の同意を不要とするものです。
・Googleの現株主が、同数・種類・権利の持株会社株式を取得すること
・持株会社がDelaware州法準拠の会社であること
・持株会社の定款 等(Certificate of Incorporation, Bylaws)の内容が、現在のGoogleの定款等の内容と同一であること
・事業会社の取締役が、組織再編後において持株会社の取締役として残留すること
これらの要件を満たす場合には、組織再編の前と後で、株主が議決権を行使できる内容を含め、株主の権利に変更が生じないこととなります。上記規定は、株主の権利に変更が生じないことを確保した上で、株主の同意なしに、柔軟・迅速に組織再編(持株会社化)を行うことを可能としたものです。

3. 日本の会社法下での持株会社化の手法
例えば、日本において、直接関連しない複数の事業を行っている事業会社が、同様の持株会社化を行いたいという場合には、どのような法的手法が考えられるでしょうか。いくつか考えられますが、典型的なものとしては以下が挙げられます。

①株式移転方式
株式移転とは、事業会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する持株会社に取得させる(持株会社を新たに設立する)ことをいいます。株式移転には株主総会の特別決議による承認が必要とされています。
株式移転は、純粋持株会社の設立を実現するための手段として導入されたものですが、これにより事業会社の株主全員がその地位を失うため、株主総会の承認なしで行うことはできないとされています。
上記のとおりDelaware州法においては、持株会社の株主となった後も株主の権利に変更が生じないのであれば株主の同意不要とされていましたが、日本においてはそのような柔軟な取り扱いはまだ認められておりません。

②抜け殻方式
事業会社が、会社分割(新設分割)等の方法により、その事業を子会社として切り出して持株会社となる方法です。Googleの事例のように分割により切り出す資産の額が大きい(事業会社の総資産額の20%以上)場合には、事業会社の株主総会での承認が必要となります。

③三角合併方式
三角合併とは、消滅会社の株主に対して、存続会社の株式ではなく、存続会社の親会社の株式を交付するものです。日本においては、会社法により合併対価の柔軟化が認められたことにより、三角合併が可能となりました。
三角合併を利用し、2.のGoogleが採用したのとよく似た手法を取ることが考えられます。ただし、この場合において、日本の会社法下では、事業会社を存続会社とし、Merger Subを消滅会社とするというやり方はできません。持株会社化を実現するためには、事業会社の株主→持株会社の株主としなければならないのですが、日本の会社法上は、存続会社(事業会社)の株主に合併対価を交付して、存続会社の株主という地位を失わせることはできないと考えられているからです。よって、事業会社を消滅会社とし、Merger Subを存続会社とする三角合併を行うことが考えられますが、この場合、事業会社の法人格が消滅してしまうので、事業に関連して保有している許認可を新たに取り直さなければいけないという問題が生じてしまいます。

上記のとおり、日本の会社法下においては、同様の組織再編を行うには(③の方法が難しいことを前提とすると)株主総会を開催し株主の承認を得ることが必要となります。
それに比して、Delaware州会社法の規定は、株主の同意を不要とし柔軟・迅速に持株会社化を行うことを認めるものであり、Googleはかかる規定をうまく利用して今回のrestructuringを行ったものといえます。


4. 終わりに
今般のGoogleのRestructuringの意図・想定されるメリットに関しては様々な議論がなされていますが、Googleのオフィシャルブログにおいては、 直接関連しない各事業の独立運営(これによる更なる経営規模の拡大)、持株会社における長期的視点でのグループ経営戦略の実現等が主要な目的としてあげられています。報道記事では、近年Google社員が競合他社に引き抜かれた事例が少なからずあったことを踏まえ、各事業の責任者に子会社CEOの地位を与えることによるモチベーション維持・優秀な人材の確保も大きな目的の1つだったのではないかとされています。
今般のrestructuringによりGoogle事業と別個に運営されると発表された事業のうち、Life Science、Google X以外の事業については、restructuring前においても既にGoogleの子会社として運営されているようです。このことからすれば、Life Science、Google X事業の切り離し(別法人とすることによるliabilityの遮断)も目的の1つかもしれません。
他方考えられるリスクとして、Googleの有するデータ・IP・人材等のリソースの各事業間での共有が以前ほど容易ではなくなる、Alphabetからの資金等のリソース配分を巡っての各事業間での競争等もあげられています。
どのように上記リスクを乗り越えて目的を実現できるか、Restructuring後のAlphabet・Googleの新たな挑戦に期待したいところです。